一輪挿しの花のこと

2019年12月29日日曜日

茶室でのこと

 茶室には一輪の花が挿してある。
 活けてある花ではない。

 茶室の花はそこに一輪だけ、そっと挿してあるだけだ。


 美しさをめでるという意味はない。
 茶室を洒落たデザインにする意味でもない。


 それは生命を茶室に呼ぶための呼び水のようなものだ。

 触媒のようにして、その一輪がその場を引き締めるからだ。



 我々が主人と相対して、床の間に掛け軸があったり、外ではシシオドシが鳴っていたりする。


 そこに一輪の花があることで生命に関することなのだというのが、お互いに判かる。



 切りつければ血を流す生命が二人、茶室に座っている。

 そのために一輪挿しはある。

 切り取った、先ほどまで咲いていた花が挿してある。


 時代が時代なら、そこに切った首さえ置いたかも知れぬ。



 抜き身の人間同士が相対する場を飾るたった一輪。

 それは命であることを示すための符牒と言ってよい。