振袖の長さ

2020年1月11日土曜日

玄関から庭へ

 華やかな茶席があちこちで立っている新年。

 まだ松の内だ。


 俺にはあまり関係がない。

 それこそ呼ばれるのも何かのご縁。 その付き合いをやめてしまったから。


 
 そんな昔、着物で女性が正式にして、振袖なんかで集まったところに行った。

 やはり正月はまだ松の内だった。

 大きなお茶会。


 
 若い女性は振袖の袖を長く伸ばす。

 それこそ地面につくぐらい長くてもいい。

 腕をだらんとしてしまうと地面についてしまうように作る。


 そうするとだらしのない姿勢はしない、そんな親心のようなものだったと思う。

 それでもヤンチャな娘はじっとしてられず、その袖をクルクルと巻いてしまい、叱られたりする。

 玉砂利を踏んで飛び跳ねている。

 

 そうして、いよいよ娘が結婚したとか、歳をとってトウが立ってきたらその袖を短く普通の長さに仕立て直す。

 昔はそういう袖を短くする式のようなものもあったろうか。

 初潮があったら赤飯を炊くようなことがあったろうか。

 ちょっと聞いたことがないが。



 ただ、結婚して嫁入り道具に仕立て直してもらうならいいが、婚期に遅れてしまい、それでももうそんな長い振袖は逆にみっともない、短くしろという場合もあったろう。

 そして本人はまだそんな歳ではないなどと抵抗する。


 いい加減にキャリアウーマンのようなことをしていないで結婚しろなどと親が迫る。

 まだ若いし未婚だなどと切りたがらない。

 ヘタをすれば芸者みたいになっちまうからか切れ、と。

 せめて歳をとったことは自覚しろ、だから袖は短く仕立て直せということになる。


 そんな光景はあったろう。



 現代はそんなことはすっかり忘れているから、親からのお下がり、人からの貰いものだったりして若い年頃なのに短い袖で平気にしている娘もいる。


 ただ、そんな娘はきっと恋に恵まれるのではないか、かけがえのない相手が見つかるのではないか。そんな気はしないでもない。


 最初から袖が短ければ、婚期を逃すことはない。


 器に合わせるというのも人間だ。