膳と盆

2020年3月3日火曜日

古式生活

 盆のことをトレイなどと言ってしまうのが最近だ。


 だがトレイと盆は違うもの。


 トレイは運ぶために使うもの。道具だ。

 テーブルへ食器や料理を運ぶためのもの。



 盆というのも運ぶために使えるが、そのまま畳に置いて膳として使う。

 我々は畳で暮らしてきた。



 そのまま使うものだから、そのため盆には装飾がされ、漆など塗装がされている。


 この塗装を傷つけないようにする。

 気をつけて使わせるためにわざわざそういう装飾がされているとも言える。

 注意深く、あくまで注意深く食器のように盆を使う。

 漆塗りなどは食事を静かにするための縛りだと言っていい。

 日本人は騒がしく食事をすることを戒める。



 西洋で朝、朝食をベッドに運んでくれてコーヒーやらパンやらを食べることがある。

 この時のトレイはトレイとは言わない。ベッドテーブルという。




 食事膳は小ぶりの方形をしていて、足がついている。

 高さは20センチぐらい。ちょうど正座した時に膝小僧あたりぐらいまでの高さだ。

 ひとつあると重宝する。食事をする場所を選ばないからだ。

 ポカポカといい陽気の時、膳を縁側に持ち出して食事をするのも抵抗がない。



 そこに一汁三菜が乗せられて食事をするのは昔からあった形。

 今でも日本旅館などではそんな出し方をするところはまだ多い。


 我々日本人は畳の上に食事膳を置き、座って食べた。



 テーブルやちゃぶ台よりは部屋が片付く。


 
 前かがみになって料理をつまんで、元に戻り背筋を伸ばして食う。

 茶碗は手で持つが、その背の屈伸は穏やかに見えていながらなかなか体力を使う。



 なんともおごそかな食事風景だと思う。

 チカラのいる食事だ。


 だが、我々は病人ではないのだ。 そんな意思表示のようにも感じる。
 
 楽に流れることを日本人は嫌ってきた。

 厳しく自分を律するのがこの国だ。